Moonlight scenery

     “ In the labyrinth
 


冬から春先にかけての長雨が明けた地中海は、
陽光も威勢を増しつつあり。
丘の上に鎮座する王宮から望む風景は、
紺碧の海にセルリアンブルーの空が いや映えて、
そりゃあもうもう、爽快の極みっvv

 「…何か妙なもんにハマったか、もーりんさん。」
 「もうイイ年なんだから、そろそろ落ち着け。」

うるさいなぁ。///////
地球の裏側の住人のくせに、
何でそんなところへ すぐさまピンと来るかな、あんたたちったら。
夏の前にそりゃあじめつく梅雨が挟まる、こっち側の話はいいから、
それはそれは爽やかで躍動的な、そちらのお話に戻った戻った。

 「と言われても。暇なんだよな、今。」

観光立国という建前の下、
遠来のお客様がたに堪能してもらうべく、
瑞々しい緑は勿論のこと、
長閑な農作業や交通手段のリキシャだの、
人力稼動のアナログな部分も多々残し、
たいそうのんびりした国情…ということになっているR王国だが。
初夏を迎え、風の中に潮の匂いも濃い中、
その大看板でもある、
そりゃあ豊かな緑に囲まれた格好の王宮にて。
白亜の宮の2階部分のテラスに出て来て、いいお日和を浴びつつ。
絵に描いたように“暇だ〜”とばかり、
柵を兼ねている石づくりの手摺りへ
ややダレた様子で顔から肩から
のしかかるよに凭れかかっていたのが、
こちらの車輛部のホープ、ウソップというメカニックさんで。
青い空を背景にし、陽を受けての反射が目映いほどという明るいテラスは、
床石から外壁までも、同じ材質の白い石にて統一されているがため。
彼の着込んでいた作業着の濃色が拮抗し、
のべりと陸に上がったウナギみたいに伸びていた姿が、
ほぼ全面ガラス張りという扉越し、ようよう見えたせいだろう、

 「何だ何だ?
  お前、ルフィに何やら言われて、
  昨日までごそごそしてなかったか?」

それでなくとも王子様の随臣という身だろうに、
人目がなくたってそうまでダラケてるんじゃねぇよと。
勿体ない叱責半分、わざわざ出て来てのお声をかけたのが。
こちらの宮での随臣、お傍づきの皆様らを束ねるお役目の、
随臣長のサンジさんだったが、

 「だから、眠てぇんだろうがよぉ。」

小さい子供が、寝入りばなを強引に揺り起こされたような。
そんなむずがりようで言い返すあたり、
幼いころから共に居るがための甘えも出たものの、

 「職務中だっつーの。」
 「ぎゃっ☆」

両手はズボンのポッケだとて、油断しちゃあいけません。
容赦のない“かかと落とし”が降って来て、
目から星が飛ぶほど
くっきりと叩き起こされているのもまた、いつものことだったりし。

 「で? 何をごそごそしてやがったんだ?」
 「あれよ、あれ。」

鼻の長いエンジニアさんが指差したのが、
丁度 眼下の中庭に広がる、青々としたアンジェこと、欧風調の庭園で。
季節の変わり目なんぞに、時々 木々の配置換えをするのは常のことだが、
今回は いつの間にここまで仕立てたか、
上から見るとよく判る、生け垣で迷路を作ってあるのが目新しくて。

 「何だ、ありゃ?」
 「だからよ、
  ルフィがご所望だってんで、
  俺とフランキーとチョッパーとで作った訳よ。」

勿論、庭師のおっちゃんたちも総動員だったがなと付け足す彼で。
そっちは判るが彼らは門外漢もいいところだろうに、
大人でも壁の向こうはそうそう覗けまい高さの茂みを配した、
結構 本格的な密度の高いそれを、
元は確か、ただの芝生敷きだった広場へ一晩で設置したとは大したもの。
それに、

 「ルフィが庭を?」

緑や花は好きだけれど、自分から世話をと乗り出すほどじゃあなし。
ねだってまでいじったなんて、一体どういう吹き回しかと、
つややかな金の前髪の陰で目元を眇めるサンジであり。

 “俺への報告もないってのも ちょっとなぁ。”

基本、奔放な第二王子の好きにしていいと言われちゃあいるものの、
王陛下から預かっているも同然のこの敷地のこと、
知らぬ事実があったのも、少々気に入らぬと。
この清々しいいいお日和も何のその、
細い眉がちょいと跳ね上がりかかったものの、

  ―― ひゅっ、どがん・きんっ、と

鋭い擦過音とそれから、何かが重々しくも倒れたような轟音と、
それを避けたか蹴り倒したか、したらしき金属音とそれから、

 「煙が上がっとるぞ、あそこ。」
 「でーじょーぶだよ。」

生木じゃねぇし、それ以上に耐火効果のある素材だ、と。
だからぐだぐだ緩み切ってたらしい、企画担当者が太鼓判を押す。
目は覚めたが、コブが増えた分だけ頭が重いか、
重厚な石作りの手摺りへ頭を乗っけるようにして、

 「それにしても凄げぇよな。
  火薬だ何だ使う“火器”は設置してねぇのによ。」

 「当たり前だ。」

そんなもんを許可なく、しかも王宮のこんな奥向きへ
持ち込めると思っとんのか、こんの糞メカマニアが、と。
再び、その痩躯の側線へ溶け込むほどの真っ直ぐ頭上へ、
自慢の長い御々脚を、振り上げ掛かった隋臣長殿だったが、

 「だーかーら。
  あれはゾロの特殊警棒での斬撃摩擦で立った、
  熱だか煙だかだっつうの。」

 「あ"?」

唐突に出て来た誰かさんのお名前に、
蹴撃の貴公子様の降り下ろしが止まる。

 「迷路のあちこちへ配したトラップをな、
  きっと力任せに薙ぎ払っとるんだよ、あいつ。」

 「トラップ?」

何が何やらと、次から次へ出て来る予想外のフレーズへ、
聞き返すしかない隋臣長さんだったのへ、

 「だから。
  お前もそりゃあ忙しかったルフィの誕生日の宴の時によ、
  山ほどの賓客があったからしょうがねぇとはいえ、
  ゾロの奴もまた、陰ながらの護衛ってことで、
  パーテーションの裏とか監視カメラの制御室とか、
  ルフィの傍には 少しも居られなかっただろうがよ。」

 「それはしょうがなかろうよ。」

そうさ、それがお役目。
ルフィだって理屈は重々判ってやがるが、
それでも何か収まらんかったらしくてな、と。
それでのこの運びだとなると、
もはや立派な共犯者でもあろうウソップが、
にまにま笑って言うことにゃ。

 「そのゾロが、
  何やら改まってプレゼントとやら渡そうとしかかったのへ、
  ルフィがその前に読めと渡したのが、
  何と“果たし状”ってやつでな。」

 「俺、それ解読してねぇぞ。」

サンジはそうとは思わぬが、
書記官こと佑筆のナミでさえ
読み解くのに難儀するほどの悪筆が有名なルフィ王子であり。
ゾロも時折、癪だとしつつも背に腹は代えられないか、
サンジへ解読を頼むのが常なのだが、
そういう運びにならなんだのを、そりゃおかしいと聞き返せば。

 「俺らが加担してたかんな。
  果たし状はチョッパーが書いた。」

 「……何してやがるかな、お前ら

そこで親指立てて自慢げに笑うんじゃねぇよと。
そんなお陰様、
自分には今の今まで何も伝わって来なかったらしいのが癪だったか、
再びこめかみに血管を浮かし掛かったサンジだったものの、

 「ルフィとしてはだ、
  様々な困難乗り越えて、自分のところへ辿り着いてほしいんだとよ。」


   ………………はい?


あの、これと思ったら最後、
誰が止めようが関係ないと飛び出してくような弾丸王子が。
……いやまあ、さすがに そのまま王宮を抜け出してという冒険は、
十代で打ち止めとしたらしいものの、

 「それって“待ち”の体勢を自分へ敷くってことだよな。」
 「まぁな。」

アクティブが売りのあの王子様が、そんなとんでもないことを思いつくなんてと、

 「せいぜい鬼ごっこの逃げ回る役どまり、だろうと思ってたが。」
 「正しくそれだぞ?」

  あ"?

 「だが…。」

今さっき、
自分の元へ辿り着いてほしいと目論んだ
ルフィ王子だと、確かアナタ言いませんでしたかねと、

 「言うとることが矛盾しとらんか、ウソップよ。」
 「だ〜か〜ら〜。」

蹴る前に訊いてと、
結局は食らった“かかと落とし”2発目で頭が首へ埋まりそうになりつつ、
それでも何とか言をつないで。

 「あの迷路の中での鬼ごっこをやっとるはずだってことよ。」
 「ルフィも逃げ回ってると?」

  とはいえ、と

ますますと上がらなくなった頭の下、
作業着の懐ろからもそもそと取り出したのが、
ウソップなりのカスタマイズをされたスマートフォンで。
背中をとんと蹴ってもらって、何とか姿勢が戻ったそのまま、
ちょいちょいと液晶画面を指先で操作して呼び出したのが、
目の前に見えている茂みと同んなじの迷路図だ。
その上では赤と緑の光が点滅しつつ移動しており、

 「こっちがルフィで、こっちがゾロな。」
 「成程、一応は逃げ回ってるのか。」

これと同じマップも持っているのだろうに、

 「赤いほう、同じところをぐるぐる回ってないか?」
 「やっぱりなぁ。」

そこは王子様だから世間が狭いというか。
世間の問題じゃないと思うが…なんて。
傍観者らがのんきな会話を交わしている一方で、

 「だ〜〜〜っ、いきなり出て来んじゃねぇよっ!」

見た目は優雅な緑の茂みだが、
曲がり角やらT字路なぞへ差しかかると、
何やら横合いから倒れかかって来たり、
足元に深い落とし穴が空いたりと、
油断も隙もないトラップが盛大に散らばっており。
まるで敵地へ潜入しつつという設定の
対戦訓練とか、狙撃訓練とかを思わせるよな代物だったが、

 【 あ・こら、ゾロっ。ちゃんとクイズに答えろよっ。】

どこかにスピーカーがあるらしく、そこからチョッパーの声が聞こえて来る。

 【 謎解きのコーナーも一緒くたに刻むなっ。】
 「うるせぇなっ

遮断機が現れての“では問題です”と示された、
最初のなぞなぞが解けなかったのを皮切りに。
カカシが倒れ込んで来るのと一緒くた、
謎解きも何もあるものかと、特殊警棒にての打撃一閃、
スピーカーとそれから、
火花は飛ばぬ安全仕様の、
バネとかフックとかしか使っちゃいない仕掛けの数々を、
あたるを幸い、右に左に薙ぎ払って進軍中の護衛官殿であるらしく。
屈強な双肩がぐんと盛り上がっては疾風一閃、
棍棒並みの堅さを誇る特殊警棒が、
残像効果だけか疑わしいほどくっきりと、
弓なりにしなって宙を舞い。
通過した後へ残骸をぼとぼとと撒き散らかしてる凶悪さ。

 「いい加減にしろよな、ルフィ〜〜〜っ
 「こっちだぞ〜♪」

とっとと捕まえろよな、ゾロ、
朝のおやつの時間になっちまうぞ〜、サンジが鬼のように連れに来るぞ〜と、
どう煽ればいいかも判っておいでなところがまた、

 「…あんの野郎〜〜〜

さすがはあの皇太子殿下の弟だよなと、
歯軋りもので狡猾な文言へ唸ってしまう、緑頭の特別護衛官だったれど。

 “こんな言い回しでゾロが追いかけて来るってのが不思議だよなぁ。”

種を明かせば…このメモにある台詞を読めという格好で、
ネタを仕込んだのはウソップだそうだから。
……全てが終わったら荷造りした方がいいぞという、
余計な後日談を早々と明かしている間にも、

 「何処に居やがる、ルフィ〜〜っ。」

呼ばれたらお返事がルールの、半分隠れんぼのような鬼ごっこ。

 「こっちだよ〜ん♪」

きゃははvvとなかなか楽しげに、
茂みを掻き分け駆け回ってる王子様もまた、
あんまり効率よく逃げてはないそうだけれども、

 「ああまで方向音痴でよくもまあ、
  砂漠で活動なんてしてたな、あいつ。」

ある意味、範囲制限もきっちりしている迷路だっつうに。
この物騒さでは誰も近づきゃしないのだ、
紐か何かで目印をくくるとか、攻略方法はいくらでもあろうと思うのだけれど、

 「あああ、また反対方向へ駆け出しとるぞ。」
 「十時ンなったら迎えに行ったれな、サンジ。」

スマホの画面の上で行ったり来たりする点滅を
結構 真剣に見守るサンジさんへ、そんな助言をしたウソップで。
今の今まで蚊帳の外にされてた腹いせがてら、
そんなもん知らぬと振り切ってもそこは非難されなかろうが、

 「……お、今さっきの一言は効いたかな。
  外へ向かいかかってたのが戻って来たぞ。」

ウソップの何気ない一言に、
ダークスーツの肩がひくりと震えたお兄さんであり。

 「ルフィが先に外へ出て来たら、
  それでもゲームセットだよな、これ。」

おおお何か黒いオーラ出てないかと思わせる、
それはそれは低いお声で、ウソップへ念を押した隋臣長様。
香り立つ飛び切りのスィーツでも作って、
それで王子を迷路の外へおびき出そうと企んだらしく、

 「頑張れよ〜。」

このくらいの展開も実は織り込み済み。
サンジの側だけスタートを遅らせる格好にしたのは、
ルフィに詳しく、抜群のパティシエだというのへの、
ある意味ハンデキャップのようなものであり。

 『サンジだっても、宴の最中は殆ど給仕役ばっかしてたしさ〜。』

大好きな隋臣の皆様が、
肝心な当日に一緒にいてくれなかったのが、つまりは不満な王子様。
来賓へのご挨拶の指導と、お行儀の見張りをかねてのこと、
一緒にいたナミは例外。
逆に、そういう席へは同座出来ない顔触れの、
ウソップやチョッパー、フランキーには、
迷路や仕掛けを細工してもらって
設置するのに一緒になって遊んだから善しとして。

 さぁて、
 どっちが先に
 迷子の王子様を取っ捕まえることが出来ますか。
 ここで賭けとしましょうか?
(おいおい)






 ● おまけ ●

まさかに、
いばらの庭に捕らわれのお姫様って設定じゃあなかろとは思ったが。

 「…何なんだ、その着ぐるみは。」

ゾロさんの方がわずかに勝さったか、
雄々しい背中へおんぶしてもらいつつ。
さりとて迷路からの脱出には
結局 香ばしいフィナンシェのバターの香りの助けを借りた、
でこぼこコンビが人工造樹の茂みをぶっ倒して飛び出して来たのが、
それから更に1時間ほど経った後の話だったのだが。

 「だって、
  迷路と言ったら“これ”だって、
  ナミがゆってたぞ?」

相変わらず小柄な坊ちゃん、もとえ、王子様の、
いでたちというか お洋服のほうは、
特に奇を衒ってはなかったものの。
オーバーオールのおズボンのお尻から突き出していたのが、
パンヤを詰めたそれらしい、
ぬいぐるみ仕様の馬の後足(背中胴付き)。

 「……もしかして、ケンタウロスか?」

 「ちょっと待て。
  迷路の伝説つったら、
  ミノタウロスじゃあなかっ……もがむぐ。」

誰が何処を間違えたものか、
この際は明らかにしない方がと、
咄嗟にチョッパーの口を塞いだのがウソップならば、

 「ほれよ、迷路の番人様。」

四角いエッジもきっちり立って、
バターの風味が香ばしそうな。
金塊のインゴット風、フィナンシェのお山を
自分のお顔より大きい大皿に盛られ。
わあvvとご機嫌になった王子様には、
仕事半分で付いてるだけ以上の熱心さで、
特別護衛官殿と朝から鬼ごっこ出来たことといい、
何とも楽しい1日となったのでありましたvv


   
HAPPY BIRTHDAY! TO LUFFY!





    〜Fine〜  13.05.10.


  *遅ればせながらの船長お誕生日おめでとう話でしたvv
   どこがだという苦情は受け付けません。(えっへんvv)
こらこら
   ケンタウロスとミノタウロスがごっちゃになってたのは、
   他でもない私でして。
   作中のナミさん、勘違いを押し付けてごめんなさいです。
   ちなみに、
   ケンタウロスは英雄を育てたほどの賢者でもあるそうで。
   ……パンクハザード編でトラオさんの手腕で量産されたのとは
   当たり前ながら、まるきり別物ですな。。


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